紫外線吸収剤(サンスクリーン剤)の励起状態 地球表面に到達する紫外線は皮膚や眼に対して種々の障害を引き起こすため,太陽紫外線の人体への侵入を抑える方法の確立が緊急に必要とされている。肌を守るための化粧品であるサンスクリーン剤は皮膚上で紫外線を吸収/散乱し,生体への侵入を防ぐ作用をするが,生体への安全性の観点から,吸収された紫外線のエネルギーの行方,すなわち紫外線吸収剤分子の光励起状態から基底状態へ戻る緩和過程を明解にすることが必要である。 |
生体内に存在するある種の物質は光増感剤として作用し,酸素分子の電子励起状態である一重項酸素が生成される。最近,ある種の紫外線吸収剤は一重項酸素の生成を抑制する機能を有することが分かり,その機構を明らかにする研究を行っている。 |
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現在世界的に使用されている代表的な有機系UV-AおよびUV-B吸収剤はそれぞれ4-tert-butyl-4'-methoxydibenzoylmethane (BMDBM, Avobenzone, 商品名Parsol 1789) およびoctyl
methoxycinnamate (OMC,商品名Parsol MCX) である。市販のサンスクリーン剤は広い波長範囲をカバーするために,UV-AとUV-B吸収剤の混合系とするのが普通である。このような系ではUV吸収剤間のエネルギー移動が問題となる。BMDBMにはケト体とエノール体の互変異性体が存在し,光照射によりUV-A領域の吸収強度が低下しUV-A吸収剤としての能力が低下する光劣化の問題を抱えている。BMDBMの光安定性はOMC等のUV-B吸収剤が共存すると大きく影響を受けることが報告され,その原因としてUV吸収剤間の三重項エネルギー移動が多くの研究グループにより示唆されているが,三重項エネルギー移動を実験的に示した報告は確認されていなかった。 |
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特に,UV-A吸収剤であるアントラニル酸メチル(MA)からUV-B吸収剤であるオクトクリレン(OCR)およびOMCへの三重項エネルギー移動の速度定数を室温溶液中で求め,三重項エネルギー移動は拡散律速過程であることを明らかにした[5]。 |
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4-methylbenzylidenecamphor(MBC)等の有機系紫外線吸収剤は一重項酸素を光増感生成することが,一重項酸素の時間分解近赤外発光実験から判明した[6]。同時に,hexyl
diethylaminohydroxybenzoylbenzoate(DHHB, Uvinul A Plus)等の有機系紫外線吸収剤は一重項酸素の消光剤としての機能を有することも判明した[7]。 |
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| 水溶性UV-B吸収剤としてサンスクリーン剤に配合されている2-phenylbenzimidazole-5-sulofonic acid (PBSA)は同じく水溶性ビタミンB2であるリボフラビン(RF)から一重項酸素が生成するのを抑制する機能を有することが分かった。リボフラビンの光励起三重項状態をPBSAが消光することが観測された生成抑制機構であることを明らかにした[8]。美白有効成分として化粧品に配合されているpotassium
4-methoxysalicylate (4-MSK)もPBSAと同様にリボフラビン光増感一重項酸素生成を抑制することが分かった[9] [8] Chemistry Letters 52, 325-328 (2023). [9] Journal of Photochemistry and Photobiology A: Chemistry 472, 116743 (2026). |
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| 最終更新日:2026年1月6日 菊地研究室トップページへ |
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